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恐怖の暴走タクシー

あの日…
 
イタリアの某都市で毎年行われる展示会の会場で、現地の某メーカーとのギリギリの商談を巧く纏めることに成功した私たちは、待ち受けている恐怖の事など全く予想だにする事も無く、ただただ、皆それぞれに商談の成功に浮かれ、その興奮に酔い痴れていたのでございます。 その私たちにあんな恐ろしい出来事が襲いかかろうとしているなど、一体誰が想像し得たでしょう。 
 
そう、あの日は折からの雨… 展示会場からホテルに帰るタクシーを私たちは5人のグループで待っておりました。 私たちの5人と云う人数は、一台のタクシーに収まるには無理のある頭数でしたが、トランクルームに補助席を備えた大型のタクシーならば何とか… と、偶然を期待しつつ列の進むのを待っていたのでございます。 それまで順調に来ていたタクシーが、何故だか丁度、私たちが列の先頭になった所で全く来なくなり、寒さと次第に強くなる雨脚の中で周囲の空気もいらだったものへと変わって参ります。 私たちもタクシーの来るのを今か今かと待ちわびておりました。
 と、そこへ… 2台のタクシーが並んで滑り込んで来たのでございます。 私たちの前に横付けされたタクシーは残念乍ら小型のものでした。 案の定、運転手は5人は乗れないと云うのです。 それならば、その後に続く2台目のタクシーは…? と見遣ると、それは幸運な事に補助席を備えていそうな大型のタクシーだったのです。 運転手も5人乗せられると軽く請け合います。 私たちは、最初に来たタクシーを後ろに並んでいた2人連れに譲り、後ろの大きなタクシーへと進んだのでございます。 
 
運転手は身振りで乗るように促します。
 
え? このまま? 
 
雨は激しく降り続いておりました。
運転手は、トランクルームの補助席を出すでもなく、既に運転席に乗り込んでおり、私たちは仕方なく助手席に一人、そして無理矢理に詰め込むようにして後部座席に4人が乗り込んだのでございます。 後部座席に乗り込んだ私は、せめぎ合う同僚のお尻の勝負に負け、座面から半分前にはみ出し、前の座席のバックシートに捕まってかろうじて体を支えていなければならないような状態に陥ってしまったのでございます。
 
本当にこのまま出発してしまうのだろうか?
 
半信半疑の私たちを尻目に、運転手は後部座席の状態に何の関心も示さないままタクシーを発進させたのでございます。
 
運転手は一寸だけ伸びた黒みがかったブロンドの髪に無精髭、シャレた眼鏡を掛け、ジーンズにスニーカー、Tシャツの上にラフにネルのシャツを引っ掛けた年の頃なら30代の中盤と思われるおにいちゃんで、しゃべる言葉はこの地方の訛なのか、のんびりとしたはっきりしない間延びした口調のイタリア語で、勿論、英語は全く通じません。
 
そして、本線に出ると、いきなりの急加速。
 
これ迄の経験でも、多くの場合、イタリアのタクシーは必要以上にスピードを出しますし、また、必要以上に車間距離をつめる傾向にもありますし、また、運転手は必ずと言っていい程、運転中に携帯電話で通話したりメールを打ったりするのですが…
 
私たちの指定したホテルの場所を知らないらしいこのあんちゃんは、ダッシュボードの中に放り込んであったカーナビゲーションを時速120キロで車を飛ばし乍ら車内に取り付けようと奮戦し始めたのです。 
 
前は全く見ないままの120キロ走行。
当然、ナビゲーションシステムを巧く固定する事など出来ないのが道理… 彼は残念そうに機械をダッシュボードの上に放置しました。 
外は既に日が落ち、雨は激しく降っているのでございます。
 
やがて、タクシーは高速道路に進入しました。 ダッシュボードの上には投げ出されたナビゲーションシステムが行ったり来たりしています。 あんちゃんはおもむろにポケットから携帯電話を取り出すと、当たり前のように何やら操作を始めたのでございます。 恐らくは配車係にホテルの位置を伝え、誘導してもらおうとしているのでしょうが、そうこうする内に、速度は150キロにまで上がり、車内は凍り付いたような静けさ… 車内に響くのは私たちの誰かの唾を飲み込む音と彼の口からいつ果てるとも無く続くのんびりしたイタリア語、そして、楽しそうに笑う声が… ハンドルを握る手にはタクシーに乗り込んだ直後に渡したホテルの住所の書いてある紙が握られており、そして、しばしばハンドルから完全に手を離しているのが垣間見え… あまりの事に、わたしの目は彼の行動に釘付けになってしまったのでございます。 
 
そして…
 
先ほど迄は空いていた高速道路の3車線が次第に車の数を増して来て、遠く右端の車線に大きなトラックが止まっているのが見えました。 私たちの乗るタクシーは真ん中の車線を疾走しています。 
 
あ…
 

見る間に


右に止まっているトラックの
トラックのストップランプが
トラックのストップランプが迫ってくるでは
迫ってくるではありませんか


右に 
右に
右に
吸い込まれるように
吸い込まれるように

 
見ると
見るとあんちゃんは

前を
前を
前を
 
前をまったく
まったくみていない!
 

ぎゃああああああああああああああーーーーー!!!!!!
 

たぶん
たぶん、ぶつかる

 
しかし、その刹那、あんちゃんは左にハンドルを切ったのでございます。
 
た、たすかった…
 
掌にはじっとりと汗が滲んでおりました。
 
ホテルに着き、支払いを済ませて降りようとするその瞬間、同乗者があんちゃんに向かって云ったのでございます。
 
あんた… あんたの運転はミハエル・シューマッハ並みだね。
 
オオ… しゅーまっは…
 
あんちゃんは、はにかんだような間延びしたつぶやき声を残し、嬉しそうな笑顔で去っていったのでございます。
 
彼は、今も生きて元気でタクシーを運転しておりますでしょうか…
わたしには、到底、それを信じる事が出来ないのでございます。
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2008年01月20日 | Comments(4) | Trackback(0) | 恐怖夜話

恐怖の圧力鍋/恐怖夜話

このお話はノンフィクションであり、某シェフの恐怖の体験談から再構成したものです。


あの日…

そう、あの日。
慣れから起こしたほんの少しだけの慢心が、あんな恐ろしい出来事を引き起こす切っ掛けになるとは…

小春日和の麗らかな陽射しが満ち溢れる冬の日の午後。
ランチタイムも終わり、客足も途絶え、ただ、フロアのスピーカーから流れる音楽を耳に感じながら、私は、残り少なくなった営業用のカレーを作成していた。

手順はいつも通り。
豚の三枚肉の固まりと脛肉、そして、タマネギにトマトにスパイス… シンプルなカレーの仕込みである。

手慣れたものだ… 手が自然と動く。

営業用のカレーの仕込みをまかされてから、既に半年。私は、鼻歌をうたいながらタマネギを圧力鍋に放り込んだ。そして、肉、トマト、水… ガス台に掛け、火をつける。後は18分圧力を掛けて…(*1)

キッチンタイマーが鳴る。
圧力は自然に抜けるまで待たなくてはならない。 

私は、サラダの材料を刻みながら、圧力が下がり切るのを待ち構えていた。

そろそろ…?

圧力を示す突起が完全に下がっている様だ。私は、早速、押さえ蓋を開けようとした。

あれ? 何で?

蓋がなかなか開かない。何かが引っ掛かっているのだろうか… 常ならば、すっと動くはずのスライド式押さえ蓋が、渾身の力を込めると。それでも少しづつ動き始めた。
そして、漸く蓋の戒めが解けた、その刹那。圧力鍋の内部から何か得体の知れないものが一瞬のうちに沸き上がり泡となり、瞬く間に天井目がめて掛け上って行くではないか。


ゴボボボボボボボボォッブショォーーーーーーーーーーーーーーーーーォォン!!!


静寂。

そこには、再沸騰(*2)の威力で上部換気扇の位置にまで吹き出したカレー前駆液を呆然と見つめる私自身がいた。

未だごぼごぼと沸き返る圧力鍋の内部と天井から滴り落ちてくる油っぽい液体。

一体… 如何したら?

更に… 考えてみれば当たり前なのだが… ちょっとばかり、熱かった。


*1)某シェフ、渾身の投稿「今夜はカレーでもシリーズ」を参照の事。
*2)再沸騰とは… 圧力鍋の内部は気圧が高まっている状態であり、その中の水の温度は常態での沸騰値百℃を超えている。従って、圧力がぬけ切らないまま… また、抜け切ったと思っても、何らかの原因で内部の温度が百℃を超えていた場合、通常の環境に晒してしまうと、急激に激しく沸騰状態が始まり、天井にまで届く(少し大袈裟)程に噴出します。また、それ程ではなくても、再沸騰すると本当にコワイです。

御注意あれ。
2007年09月11日 | Comments(0) | Trackback(0) | 恐怖夜話

黒い足が見えたから/恐怖夜話

あの日…

そう… あの日は、夜になってもいつ迄も昼間のような熱気が立ち上り、冷房を効かせているにも拘らず籠ったような生臭い湿気がまとわりついているような… そんな嫌な雰囲気に満ちあふれた夜でございました。
 
わたしは、仕事から帰ると、いつものように台所に立ち、気分が乗らないながらも取り敢えず夕食の準備を始めたのです。 夕食のメニューはオムライスでございました。 比較的簡単に出来る上にヴォリュームもあるので、やる気の起きない夜には良く作るメニューなのでございます。 わたしはのろのろとオムライスを作る準備を始めました。

そして、冷蔵庫から取り出した野菜をケチャップライスの材料として適当な大きさに刻んでいた私は、背後に、何とはなしに… 何とはなしに、人の気配を感じたのでございます。
 
 
あ、斜め左後ろから彼が見ている…?

 
わたしは、そう思ったのでございます。 何時の間にか帰って来た彼が、後ろから見ている…
まな板の上には、刻みかけの人参があり、わたしはそれを更に刻みながら、彼に話しかけました。
 

今日ね、オムライスにしたよ。
好きでしょ? オムライス…
 
ね?

 
どうしたことか、返事はございませんでした。
いつもだったら返事がないなどという事は…
 
わたしは、不審に思い、左斜めうしろを、ちらと振り返ったのでございます。

 
あれ? 誰もいない?

 
気の所為だったのでしょうか…
確かに誰かの気配をはっきりと感じたのです。 しかし、それにも関わらず振り返ってみても、誰かがいるどころか人の気配など全くしないのです。
 
わたしは、何だか釈然としないものを感じながらも、人参の次に処理しようとしていたソーセージのみじん切りに意識を戻しました。 しかし… 
 

あ… また?
 
 
ソーセージのみじん切りをしながら、またしても、左斜めうしろに人の気配が… 

人の気配? いえ、それは… 人の動く気配と云うよりも、黒い黒い何かの影… そう、黒々とした何かの影だったのでございます。

みじん切りをする為に俯いている私の顔と目線。 
捉える視界の中に、黒い黒い人の足のような影が… 人の足のような影が映っているのです。
 
私は、振り返りたくない思いを振り切って、また、左斜めうしろを一瞥致しました。
 
 
誰もいない… 
 
 
あれ程はっきりとした近くがありながら、しかし、人の気配も、空気の動きも全く感じられないのでございます。
 
わたしは再びまな板の上のオムライスの材料に集中しようと懸命に努力したのでございます。 しかし、いざ、まな板へと向き直ると、黒い黒い、その黒い影が… その影が、どうしても私の視界に… 
 
 
一体、一体どうして! 一体何?
 
 
パニックに近い気持ちを感じながら、わたしはもう一度左斜めうしろを振り返り、そして、今度は周囲を大きく見回してみたのでございます。
 
そして… そして、終に、わたしの目がその黒いものの正体を捉えたのでございます。
 
それは…
そう、丁度わたしがまな板に向って俯いた時にだけ、その時だけ視界に入っていたそれは…

 
それは、廊下に脱ぎ捨てられた黒い靴下の両方だったのでございます。
2007年08月21日 | Comments(0) | Trackback(0) | 恐怖夜話

余りにもフツーの結末/恐怖夜話

二?三日前から読んでいた本を読了。

久し振りにソファの座面に横向に長々とソファの肘描けに頭を乗せて読んでいたのだが、このソファでのこの姿勢が、わたしとソファのサイズが丁度いい具合に合っているせいだろうか、実に楽で快適なのである。

本は残り30頁…

何となく目を閉じると、一瞬、眠りに落ちてしまったことに気付く。
 

いかんいかん…

 
気を取り直して、読み続ける。
 
漸く、読了…
 
しかし、今一歩だったかな… だって、何が云いたいのかさっぱり解んないんだもん。

だって、あの場面では主人公が… あんな風に、余りにもフツーなストーリーじゃあな…
あれ? 余りにもフツーって… どんなんだっけ? 
あれ? 主人公はどうしたんだっけ?
あれ? だから、確か… あそこで、ああなって… あれ? その後は?

え?
 
あれ?
 
えええええ? 何で?!
 

今、読み終わったばかりの本が、どんな結末だったのかが、考えてみてもさっぱり解らない…


どうして?
 

こんなことってあるのだろうか…

わたしは、恐慌状態に…



と云うところで目が醒めた。

残り、30頁。
今度こそ読了。
2007年07月17日 | Comments(0) | Trackback(0) | 恐怖夜話

閉め出しを喰うという事/恐怖夜話

ああ、重い…
 
欲張って、こんなに買い物をしなきゃ良かったかな。
でも、今日は久し振りの午後半休だしな、たまにゃ、ちゃんとした料理を作らなきゃ申し訳ないしな。
 
えっと…
 
たらこでしょ、たらこでたらこペーストを作ろ。 バターも買ったよね。
折角、暑くなって来たし… たらこペースト日和だよ、今日は特に。
 
そんで、挽肉。 たらこペーストを作ったら冷凍して備蓄して、夕食は、ハンバーグっと。
 
ああ、もっと野菜を買ってくりゃ良かったかな… ま、いっか…
 
ん?
バスが来てる。
 
急がなきゃ。
 
(たったったったった)

---
ふう… 間に合った。
 
今何時かな。 一時半か… あんまり時間ないじゃん。
三時からミッションだから、二時半頃には家を出なきゃ… 
 
後三分で発車か。
 
じゃ、家に着いたら四十分は過ぎてるな。
 
えっと、さっき買った焼きそばと… それから、昨日の残りの冷やご飯と… 
ああ、お腹空いた。 でも、何か、時間が無さそ。
折角、午後半休なのに… たまには、ただ単に休んでみたいな。
 
四十分過ぎだったら、お昼ご飯を食べたらもう出掛けなきゃならないよ。
 
えっと… 家に帰ったら…
 
 
家に… い、え、に… 
 

ん?
 
あ、あれ?
 
そう云えば… あ! え?
 
(ごそごそごそごそ)

--- 
や、やっぱり… な、ない… 
 
鍵が… ない!
 
(バスは、当然、何事もなく走り続ける)
 
え、ど、どうしよう…
 
(次は○○○です)
 
あ、お、降りなきゃ…
 
(バスが止まってから席をお立ち下さい、バスが止まってから…)
 
 
---
え?、これからどうしよう…
っつーか、コレをどうしよう…
 
取り敢えず家に…
 
(とぼとぼとぼとぼ)
 
いやいやいやいや!
家に帰ってもコレを預けられるような知り合いもいないし… どうしようもないじゃんか!
 
(踵を返す)
 
あ… そうだ!
交番でお巡りさんに預かって… 貰う? 
 
(うろうろうろうろ)
 
交番でお巡りさんに預かって… 貰えないよな… 駄目だよね…
 
(立ち尽くす)
 
そ、それにしても、何でこんなに暑いんだよ!
こんなに暑かったら、生の挽肉が… たらこが… バターが…
 
コレを持ったまま、ミッションに行ったら… 行ったら…
 
だけど、あそこって、すげえ暑いんじゃん? ヤバいよ、腐れる! 絶対腐れる!
 
(とぼとぼとぼとぼ)
 
あ、そうか!
コンビニに行って、そこで預かって貰うのはどうだろう!
 
地域住民の為に、ひと肌脱いでくれるかも!
 
(ずんずんずんずん)
 
でも… それって、恥ずかしいかな…
これから先、このコンビニに入れなくなるかも…
 
(いらっさいませ?!)
 
と、取り敢えず、ここは涼しいから暫くここで…
 
あ! そうだ!
 
ここで、小僧が帰って来るのを待てば良いんじゃないかな!
 
そだそだ!
それが一番良い! ここで、漫画を立ち読みしながら交差点を見張っていれば、絶対にあいつが通りかかる筈! よし! それじゃ、ここに買い物袋を… 
 
うーん、ちょっと邪魔かな… ま、良いよ、背に腹は代えられん。

(がさがさがさがさ)
  
---
今何時かな…
二時二十八分か…
 
小僧… 来ねえな…
 
もしかして見逃したかな?
 
(ごそごそごそごそ)
(とぅるるるるる… とぅるるるるる… かちゃっ)

あ、もしもし!
 
(タダイマ ルスニシテオリマス ぴー トイウ オトニツヅケテ…)
 
けっ、いねえや…
 
---
今何時かな…
二時半か…
 
(ごそごそごそごそ)
(とぅるるるるる… とぅるるるるる… かちゃっ)
  
(タダイマ ルスニシテオリマス ぴー トイウ オトニツヅケテ…)
 
うぐう! 早く帰ってこいよ! 
 
---
何時? あ、もう二時三十五分!
 
チクショー! 時間切れじゃんかよ!!!!!
 
(ありがとうごさいやした?)
 
---
あぁ… せめて、買い物をする前に気付いてりゃあな…
 
そうか… 家に帰って、ドアの前のガスメータースペースの扉の中に入れとけば良かったんじゃねえの?
あそこなら、日も当たってないし、涼しいんじゃねえの?
 
でも、今から家に帰ってたら、ミッションに間に合わねえよ…
 
どうするどうする?
どうする? 俺!
 
この腐れそうな…
 
和牛挽肉2パック/黒豚モモ挽肉1パック/たらこ3パック/雪印バター2個/牛乳1本/ブロッコリー1個/ピーマン1袋/瓜の漬け物1袋/青豆豆腐1パック/おかき1袋/黒糖ボウロ1袋…
 
 
そして、俺の喰う筈だった焼きそば…

---
レジ袋2袋を両手に振り分け、どんよりと重い湿気とむっとする暑さの中で、立ち尽くす女。
一体、彼女に生きる道はあるのだろうか。
2007年07月05日 | Comments(4) | Trackback(0) | 恐怖夜話

「毬藻」についての解説/恐怖夜話

先ずは「毬藻/恐怖夜話」をお楽しみ下さい… 

--- 
まあ、勿論… 「巨大な一つの固まりとなって小さな金魚鉢から溢れ出ん程に…」と云うのは嘘ですけれど(笑)、手に入れた経緯や何かは本当なのです。そして、巨大化(!)と云うのも、一応、五分の二程の真実を含んでいるのですよ。(否、十分の三、か、な?)

その話しは一寸置いておいて… 毬藻本体について。

本編(笑)にもあるように、この毬藻は都内の水族館のお土産なのです。その名も「愛のマリモ」。クサいです。そして、筒状の容器に入っており、上面の蓋は不透明である為、横の歪曲した面から毬藻を眺める訳ですが、屈折率の関係で、実物よりも二回りくらいは大きく見えるんですよね。毬藻を金魚鉢に移す段になって、初めて肉眼で毬藻を見たのですが、直径は大きく見積もっても8ミリメートル。あまりの小ささに吃驚しましたよ。

こう云ったお土産って、全国各地津々浦々の水辺で売られていると思うんです。実際に、私も、富士五湖の一つである山中湖畔でも見ましたし、他に複数の水族館で同じパッケージ同じ体裁の「養殖毬藻」に出会いました。で、実は… 見掛ける度に欲しくて欲しくて仕方がなかったのです。大人気ないですよね? なので、堪えに堪えていたのですが、今年の夏、またしてもそのパッケージに出会った時には、もう無理でした、如何にも我慢出来ませんでした。(本当)判っているんですよ… 大人気ないって。(ぷ?)

と云う訳で、手に入れた毬藻なんですが、家に持って帰る迄にはまた紆余曲折があるんです… 

大人気なく嬉しがった私は、毬藻をきちんと仕舞わずに、手に持って歩いていたんですね。ホラ… 時々ちらっと眺めては悦に入りたくて。(判ります? この気持ち)そして、とある喫茶店にてお食事をし、更にデパートを冷やかしたりし、電車に揺られて帰宅したのですが、家に帰ってみると… ね、ないんですよ、毬藻が。よく考えてみると、食事によった喫茶店で確かに机の上に置いたのが記憶にある最後のシーン。そう、私は大切な毬藻をあの喫茶店に置き忘れてしまったのです。家からその喫茶店迄は電車に揺られて二時間、更に歩いて三十分。とても取りにいける距離ではないので… 通常なら諦める所なのですが、私は記憶の糸を手繰り、その喫茶店の名前を懸命に脳内走査し、奇跡的(?)に思い出し、某電話局の番号案内で電話番号を尋ね、喫茶店に電話し、説明し、お願いし、宅急便で送り届けて貰ったのです。え? 大人気ない?(笑)

そうまでして手にした毬藻なのに… 人の心はうつろいやすいものですね。

私が毬藻を放置して、たま?に、日なた水を追加する程度のお世話しかしていなかった数週間の間に何が起こったかと云いますと。先ず、ベルベット状だった毬藻表面のけばけばがやけに長く育って参りまして、何か大きくなったな… と不審に思って、よくよく観察してみると、何と、二個の毬藻がお互いに伸ばし合った毛羽が絡まりあって見事にくっつき、一体化しているではありませんか! そう、毬藻はホンの僅かの間に二倍の大きさに巨大化していたのです。

ね… 恐いでしょ?

---
内容からもお判りの通り、これは、二年程前のまだ実家に暮らしていた頃に書いたものなんですね… 私の人生がここ五年でどんな風に変わったのかという時代の流れ(意味不明)がよく判ります。 

ところで、問題の毬藻ちゃんですが…

実は、まだ実家ですくすくと育っています。

それだけの事が、何だかコワイ…(笑)
 
---
…と書いたのが、更に二年程前の事なのはお判りでしょうか。
 
この当時、実家ですくすくと育っていたあの毬藻ですが、実は、既に昨年の暮れにお亡くなりになってしまったことをお知らせしなければなりません。 もう一寸長生きしてくれると良かったのですが… 新しく購入した毬藻が元気に育つ事を祈りつつ。 
2007年06月17日 | Comments(0) | Trackback(0) | 恐怖夜話

毬藻/恐怖夜話

そう… 今から三ヶ月前、夏の陽射しと茹で上がりそうな湿気の中で私はそれを手に入れたのです。けばけばと丸く愛らしい緑色も鮮やかなそれ。しかしその他愛もない物体が、私をこのような恐怖へと導くとは… その時の私には全く思いもよらなかったのです。

私の手に入れたもの、それは、小さな筒型の容器に入った直径一センチ程度の二つの毬藻。あの日、私はとある水族館のお土産コーナーでそれを見付け、産毛にも似た緑色の繊維をびっしりと身に纏った、その余りにも健気な風情に一度で魅入られてしまったのです。そして、我知らず、それは私の手中に大切に抱えられていたのです。ああ、私の可愛い毬藻…。 

暫くは、私と毬藻の蜜月の日々が続きました。しかし、日が経つに連れ、次第次第に私の心は毬藻から離れていったのです。慈しみ育てていた毬藻を放置する毎日… 気付けば、毬藻の為に特別に誂えた美しい花模様の描かれた丸い金魚鉢にもカルキの痕が付き、干涸びそうになる寸前での、そして余りにもぞんざいな水の投入… 

冬に差し掛かったある日。私の眼は、その日に限って毬藻に吸い寄せられ、何度となくその喫水線がカルキによって白く刻まれた水槽を魅入られた如くに眺めている自分に気付いたのです。毬藻。あの小さかった毬藻。 

そして、その恐怖の出来事は起こったのです。 

動く筈のない毬藻が蠢いている… そう、そして確かに… ああ、何と云う事でしょう。眼の錯覚では断じてありません。それは、私の眼前であの愛らしい産毛のようだった触手を伸ばし、二つ互いに絡み合い乍ら蠢き、今や、巨大な一つの固まりとなって小さな金魚鉢から溢れん出ん程に…
 
---
「毬藻」についての解説/恐怖夜話 も、合わせてどうぞ!
2007年06月17日 | Comments(0) | Trackback(0) | 恐怖夜話

わたくしのごみ/恐怖夜話

昨日は燃えるゴミの日だった。

世田谷区の私が住んでいる地域では、燃えるゴミの日は、水曜日と土曜日で、知っている人は知っていると思うのだけれど、休日である土曜日の収集と放出を巡っては、私と同居人の間で水面下でのかなり激しい駆け引きや、寝た振りや、騙し合い等が行われており、 我々の意見は、そもそも、燃えるゴミに限らずゴミの収集日は、ウィークデイにすべきであり、特に、燃えるゴミの日は、土曜日と日曜日にさんざん飽食して生ゴミが膨れ上がっている月曜日と、週の中間の木曜日であって然るべき… と云うもので、しかし、別に行政に訴えようと思っている訳ではなく、ただ単に、そう云い合っているだけなのであり… 
 
ところでしかし、今、本当に云いたいのは、こんな事ではないのであり…
 
実は、昨日の収集日の前の休日にクローゼットの整理整頓を敢行したのだが、その際、クローゼットの奥から、ここに引っ越して以来、二年もの長きに渡り、クローゼットの奥の奥に塩漬けになっていて、完全に忘れ去っていたのに、全く何の支障もなかった衣類が久し振りに現実世界に登場したのであるが、今迄、全くその存在を観測しなかったという事はシュレディンガーの猫の如く死んでいたも同然… と瞬時に判断が下るが早いか、折角、日の目を見た忘却衣類は、哀れ、東京都指定炭酸カルシウム製ゴミ袋に直行の憂き目を見、その十分に着用可能な衣料はゴミとしてゴミ袋の中に納まり、丁度、週が明けて初めての収集日であったその日の朝、早出だった同居人の手で指定のゴミ置き場へと放出され… 
 
それはどんなものだったかと云う事を解説すると…
 
冬用のパジャマ二組とぉ…
6年前に購入するも一度も人前で着なかったフリフリの白いブラウスとぉ…
かつて750円で買ったGジャン とぉ…
十数年前に母がくれた謎の黒のツナギ とぉ…
 
なのであるが、このツナギは、当時流行っていたのか、母が自分で着るために購入したものが、流石に着ることがかなわなかったらしく、私に下げ渡されたもので、私も着るかも知れないと考えて、ずっと所持しており、一度か二度は、試着なども試みた揚げ句、山梨から群馬、そしてここまで連れてきた由緒正しきツナギだったのであるが…

そのような、かなり無駄なものを綺麗さっぱりと放出し、はじめは爽快な気分だったのだが、しかし、時間が経つにつれて、私の心に、もしかしたら失敗? 謎の黒のツナギはまだしも、少なくとも、Gジャンは救い出し、一度ゴミにしたものをそのまま着るのは如何なものかと思うので、洗濯した後、もう一度着ることを試みるべきでは? と云う思いが湧き上がってきて…

そのような理由で、私は、彼の放出場所に、自分の出したゴミを拾うために走ったのだが…

しかし…
私の…
パジャマと…
フリフリブラウスと…
Gジャンと…
謎の黒のツナギの入った福袋は忽然と消えていて…

今頃どこかで第二の人生を送っているらしく…


あ…


そういえば…


そのゴミの中には… 
2007年06月07日 | Comments(0) | Trackback(0) | 恐怖夜話

その時、何が起こったか/恐怖夜話

あの日… 
 
そう、あの日。
 
爽やかな筈の五月の風。 しかし、今にして思えば、爽やかであって然るべき空気が、どう云う訳かやけに鬱陶しく… 何やらじめじめとした、五月と云う季節に似つかわしくない陰鬱な雰囲気がわたしの周りに重く暗く澱んでいたような… 確かに、そんな気配を感じたのでございます。
 
あれは、昼休みの事でございました。
 
わたしはいつもの様に会社の近くのドトールに赴き、そして、またいつもの様にアメリカンコーヒーとミラノサンドBを注文したのでございます。 
 
貧しい食事だとお思いでしょう。 ですが、わたしの貴重な時間を、何処に食べに行こうかとか、何を食べようかとか、食事にありつくというただその為だけに費やさなければならない移動の為の時間とか、そう云ったものが、何よりも無駄だと感じるわたしの気持ちをお察し下さい。 昼食など、ただ空腹を慰める事が出来ればそれで良いのです… 肝心なのは、満足のゆく美味しくて充実した昼食を追い求める換わりにわたしに与えられるその時間… ただそれだけなのでございます。 
 
ただそれだけの為に、わたしは毎日、ドトールで昼食をしたためるのでございます。
 
あの日も、粛々と列に並び、そしてわたしの順番が巡って参りました。 
ふと目を上げると、あの女性従業員がそこで微笑んでいたのでございます。 

毎日の様にドトールに通っておりますと、好むと好まざるとに関わらず、言葉こそ交わさないものの従業員の方々とも顔見知りになるものでございます。 その中にあって、彼女は、従業員と客の間に期待される「薄い知己的」な関係から逸脱しはじめている様に思え、些かの困惑が否めないのでございますが… 詰まり、彼女は、わたしの顔を見ると注文を受ける前から既に、アメリカンコーヒーのMサイズの用意を始めるのです。 今日も、彼女は微笑みとともにアメリカンコーヒーのMサイズを差し出したのでございます。 そう… 注文する前から…
 
しかし、それはいつもの事。 
ですから、この日もいつもと同じ風景に彩られていたはずの昼食の時間だったのでございますが… 
 
そろそろ、あの恐怖の出来事を語る時が参りました。 
 
わたしは、いつもの様にコーヒーとミラノサンドの乗ったトレーを窓際のカウンター席に置き、コーヒーが程よく冷めるまでの間、食べ物はトレーに乗せたままに手をつける事なく、椅子に納まり、早速、その時に丁度、読み掛けておりました文庫本「博士と狂人」を鞄から取り出し、読み始めたのでございます。 そして、暫くの間、本の内容に完全に集中しておりました。 ところが、あるふとした瞬間に、視界を右往左往する小さな黒い影に気付いたのです。 
 
「あ… これは…」 それは、一匹のショウジョウバエでした。
 
何処からともなく現れたショウジョウバエが、何故なのでしょう、わたしの極近くばかりを細かく円を描きながら飛び回り始めたのでございます。 わたしは、当然の様に、右手でもってその小さな、しかし衛生面での懸念が感じられるハエを追いました。 二度、三度… 何度となく追い払っても、そのハエはしつこくわたしの周りだけに纏わりついて参るのでございます。 更に激しく手を左右に払い、仕舞いには両手を振り回す様にして、わたしは何とかしてショウジョウバエの脅威から逃れようと半ば必死でございました。 パニックに近い感情に囚われていたのでございましょう。 しかし、わたしのなかの冷静な部分は、このままこの様な行為を繰り返すことで、逆に、思わぬ事になるやもしれない… と云う事が薄らと、解っていた様に思われてならないのでございます。 
 
例えば…
 
例えば、わたしのまだ手を付けていないコーヒーの中にこのハエが飛び込む…
 
その余りにも恐ろしい可能性をリアルな映像として頭の片隅で感じながらも、狂った様に振り回す手を止めらずにいるわたしの目に、まるでデジャブの様に展開する現実の光景が飛び込んで来たのは、まさに… まさに、その直後だったのでございます…
2007年05月24日 | Comments(0) | Trackback(0) | 恐怖夜話

そしてなにもかもがなくなってしまう…/恐怖夜話

わたしは、ここに腰掛けて、そして考えているのです。
 
そう云えば…
 
始まりは、そう、台所の蛍光灯が点滅を始めた事だったのです。
二本あるうちの一本が先ず点滅を始め、それを取り除いて事無きを得た途端にもう一本の蛍光灯が点滅を始め、終には、それを外さざるを得なくなったのです。
 
そして、次に、流しに取り付けるごみ取りのネットが底をついたのです。
  
更に、食器洗い用の洗剤がなくなり、ティッシュの買い置きがなくなりました。
 
お米がなくなり、レギュラーコーヒーの粉がなくなり、インスタントコーヒーもなくなり、砂糖がなくなり、塩がなくなり、シャンプーがなくなり、リンスがなくなり…
 
何もかもがなくなり、そして…
 
わたしは今ここに座っています。
 
手には約15センチメートルのシングルのトイレットペーパー。
ホルダーはカラカラと空しい音を響かせ、幾度そこを覗きこもうと、決して変わる事のない光景が私の眼に映し出されるのです。

もうどのくらいこうしてここに座っているのでしょうか。
わたしはもう長い間成す術もなく、この手の中にあるほんの15センチの長さの薄いシングルのトイレットペーパーを見つめているのです。
 
これがせめてダブルのロールだったなら… 
 
 
皆様も気をつけた方が良いですよ。
ある種の家庭用品と云う物は、何故か一斉になくなってしまうものなのです。
2007年04月19日 | Comments(0) | Trackback(0) | 恐怖夜話
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た ま む し い ろ

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